あなたのお子さんが「発達障害」とわかったら、すぐに受け入れることができますか?
「発達障害」は目に見える障害ではなく、生まれつき脳の働きに違いがあり、行動や情緒に特徴がありコミュニケーションがとりづらく、生きにくさを抱えているということです。
目に見える障害はもちろんですが、目に見えない障害もたくさんありますよね。
愛するわが子の健康と成長を楽しみにしている日常のなか、ある日突然「発達障害」の疑いや診断を受けたら、ショックでパニックになるほどの衝撃を受けたり、「そんなことはない」と認めたくない気持ちになるものですよね。
この記事では、3歳で発症した小児がんの闘病や、7歳で発達障害と診断を受け、二次障害を発症し引きこもりになった子どもとの波乱万丈な経験から、
- 発達障害を受けいれるまでの親の気持ちとは?
- 発達障害とは?
- 障害受容のプロセスとは?
- 関わる時のポイントとは?
- うちの子の場合の体験談
などについてご紹介します。
発達障害を受けいれるまでの親の気持ちとは
「ありのままでいい」という一大ブームになった言葉は「あなたは、あなたのままでいいよ」という意味があります。家族の健康と幸せを願いながら、毎日を慌ただしく過ごしている中、突然の発達障害の疑いや診断を受けたとき、親はとても強い衝撃とショックを受けます。
親にとって、我が子に「障害」という診断名がつくことや、その可能性を示されることはたいへんな衝撃(しょうげき)であり、心に重い負荷がかかります。親が気づいていても気づいていなくても衝撃はあります。悲しみや怒り、できればそれを認めたくないという気持ちが生ずるのは当然であり、その気持ちは簡単に解消できるものではありません。
伝える側は、単に評価を伝えて終わるのではなく、親のおかれた立場や気持ちを理解し、長い目でみる姿勢が求められます。また、親が子どもの特徴やニーズを理解して、必要な養育や療育行動の一歩を踏み出せるまでには紆余曲折(うよきょくせつ)があることを伝える側はよく理解し、その一連のプロセスを支援することが必要です。
引用元:親に伝える|国立障害者リハビリテーションセンター
愛する我が子の病気や障害を告知を受けると、親はショックでパニックになり認めたくないと思うものです。それをどう受け入れ、前を向く気持ちへと変わっていくのか、個人差はあると思いますが、たいていは同じような過程をたどっていくといわれています。
発達障害
自閉症スペクトラム症 | 対人関係が苦手で、強いこだわりがあるという特徴をもつ発達障害の1つ。 |
アスペルガー症候群 | 社会性やコミュニケーション、こだわりの強さや感覚過敏などの特徴がある発達障害の1つで、知能や言語の遅れがないもの。 |
注意欠陥多動性障害(AD/HD) | 「不注意」「多動」「衝動性」などの特徴がある発達障害の1つ。 |
学習障害(LD) | 全般的な知的発達に遅れはないが、特定の能力を学んだり行ったりすることなどに困難が起こる特徴がある発達障害の1つ。 |
トゥレット症候群 | 音声チックをともなう複数の運動チックなどが、 1年以上続く精神神経疾患のこと |
吃音症 | 言葉がスムーズに話せないなど、話を始めるときに最初の言葉に詰まったり、同じ音を繰り返したりする言語障害の1つ。 |
「発達障害」とは、 生まれつき脳の働き方の違いで、子供の頃から行動面や情緒面に特徴があり、コミュニケーションがうまくとりづらいことが多く、生きにくさを抱えていることがあります。
「発達障害」といっても個人個人で違うことから、一人ひとりの特性や症状に合わせた支援や治療がとても大事になります。
以下に、発達障害のことを種類や特徴など紹介したので、参考までにどうぞ。
》【発達障害】種類や特徴、特性などをわかりやすく解説します!
障害受容のプロセス
愛するわが子に障害があることに気づくとき、子どもの親は強いショックと悲しみに打ちのめされます。そして強い絶望感と自分を責めてしまい、とてつもなく大きなストレスを抱えることになります。
1940年代から1960年代頃、キャプランとリンデマンらによって構築された理論で、社会福祉、地域精神衛生、精神医療、急性期医療、災害医療、ターミナルケアなどで活用されます。
いわゆる危機モデルは,危機に陥った人がたどるプロセスに焦点があてられており,その人にとって重大な喪失が引き金となって危機に陥った人が,それを乗り越え,受け入れていくプロセスをあらわしている.そのプロセスはさまざまな観点から危機のプロセスとして,あるいは悲嘆のプロセスとして,また障害受容のプロセスや死を受容するプロセスなどとして,あらわされている.フィンク(Fink)やションツ(Shontz)は,危機のたどるプロセスを危機モデルとして明白に示している.エンゲル(Engel),ラマーズ(Lamers),デーケン(Deeken)は,危機のプロセスを悲嘆のプロセスとしてあらわし,コーン(Cohn)は障害受容のプロセスとして,またキューブラ・ロス(Kübler Ross)は死の受容のプロセスとしてあらわしている.これらのプロセスは,3 ~5 段階で示されており,それらの内容は表 1 に示すように,おおむねフィンクの危機モデルの衝撃,防御的退行,承認,適応の各段階の内容に共通している.
引用元:『看護における危機理論・危機介入第4班 小島操子著 金芳堂 2018年 P47』
フィンクの危機モデル
①衝撃 | 強烈な不安/パニック/無力状態 |
②防御的退行 | 無関心/現実逃避/否認/抑圧/願望思考 |
③承認 | 無感動/怒り/抑うつ/苦悶/深い悲しみ/強い不安/再度混乱 |
④適応 | 不安減少/新しい価値観/自己イメージの確立 |
衝撃
重大な出来事や脅威のために、自己イメージや自己の存在が追い詰められたときに感じる心理的衝撃の時期のこと。
衝撃的な出来事が起こりショックを受けると、強い不安感でパニックに陥り、時には無力感に苛まれます。
- 嘘だ。
- なんで。
- そんなわけない。
- ショックで何も考えられない。
防御的退行
「危機」の意味をあらわすものに対して、自分を守る時期のこと。
危機となる出来事などから自分を守るために、否認や現実逃避して無関心になったり、都合の良い願望で自分を保とうとします。
- 信じたくない。
- 何かの間違いだ。
- 絶対にありえない。
- もしかしたら勘違いかもしれない
承認
現実に起きたことを考えて、もはや抵抗できないことに気づき、自己イメージの喪失を体験する時期のこと。
起きたことを考えて深い悲しみや抑うつが怒りに変わり、不安や混乱に苦しみ悶えながらも、抑圧された感情が表出されて乗り越えようとします。
- どうしてうちの子なの?
- 何が悪かったの?
- 私のせいなの?
- イライラする‼
- どうしたらいいの?
適応
積極的に状況に対処しようと、いまの能力や資源の中で良い結果になる経験が増え、不安が減少する時期のこと。
積極的に自ら調べ学んだことから状況に対処して、新しい価値観や自己イメージを確立していきます。
- 効果があるかもしれない!
- もっと有効な情報を探そう!
- いい方法が見つかるかもしれない!
- 自分が頑張るんだ!
- 私が子供を守っていくんだ!
その他の危機モデル
日本では、フィンクの危機モデルの活用が有名ですが、そのほかにも多くのモデルが提唱されています。
①最初の衝撃 | ショック/離人傾向 |
②現実認識 | 虚脱/強い不安/パニック/無力感 |
③防御的退却 | 否認/逃避/願望/思考/激怒/混乱 |
④承認 | 抑うつ/自己失墜感 |
⑤適応 | 希望/安定感/満足感 |
①ショック | ショック |
②回復への期待 | 否認/逃避/変化に一喜一憂 |
③悲嘆 | 無力感/深い悲しみ/抑うつ |
④防衛 | 逃避/退行/回復・適応への努力 |
⑤適応 | 自信/安息/新たな価値 |
①ショックと否認 | 麻痺状態/否認/抑うつ |
②意識化 | 悲しみ/不安/怒り/ひきこもり/表面的/受容 |
③復元 | 理想化/適応/現実的/受容 |
①ショック | ショック |
②回復への期待 | 否認 /怒り/恨み/取り引き/抑うつ |
③悲嘆 | 否認 /怒り/恨み/取り引き/抑うつ |
④防衛 | 否認 /怒り/恨み/取り引き/抑うつ |
⑤適応 | 受容 |
それぞれの危機モデルのプロセスは、3~5段階で示されていて、ほとんどフィンクの危機モデルの「衝撃」「防御的退行」「承認」「適応」の各段階の内容に共通しています。
関わる側のポイント
重大な出来事や、衝撃的な出来事が起こったときの関わり方のポイントを紹介します。
「衝撃」の関わるポイント
- あらゆる手段で安全を守るために対応すること。
- 温かく誠実な思いやりをもって寄り添うこと。
- 静かに温かく見守ること。
「防御的退位」の関わるポイント
- 危機を意味するものに対して、自分を守っていることに配慮すること。
- その気持ちを理解し、安全な環境を整えるなどの援助を行うこと。
「承認」の関わるポイント
- 行動の理由や、不安の原因を追究するように働きかけること。
- 現実の再認識、残存機能の活用ができるように援助すること。
- 安全を保証し、励まし続けること。
「適応」の関わるポイント
- 新たな可能性の挑戦に向け、自立することを見守ること。
- 専門的な知識や情報を提供し、成長を促していくこと。
関わることで大事なことは、「とにかく安心できる環境を整えること」「温かく見守る」ということです。
うちの子の場合
うちの子(かっくん)の場合の、母親の気持ちの経過を紹介します。
【3歳 】
- 小児がん「肝芽腫」発症の告知を受ける。
- 長期間にわたり抗がん剤治療と切除手術を繰り返す。
- 効果が乏しく超大量化学療法を経て、自家末梢血幹細胞移植をする。
- それでも効果が見込めず、転院しさらに抗がん剤治療をする。
【5~7歳頃】
- 抗がん剤の副作用の晩期障害が残る。
- 聴覚障害、腎機能障害、低身長、後発性甲状腺機能低下症。
- 伝わらないことが多くなり、キレて暴れることが多くなる。
- 特定できない広汎性発達障害の診断を受ける。
私の場合は、発達障害と診断されて「ホッとした」というのが正直な気持ちでした。
- 子どもが問題行動を繰り返す。
- 注意しても言い聞かせても伝わらずに暴れる。
という地獄の毎日と、
- 私の育て方が悪い。
- 私が子供に甘い。
周りから言われていたこともあって、「ちゃんと理由があったんだ」とホッとしました。
私が危機モデルのプロセスを体験したのは、3歳で小児がん(肝芽腫)を告知された時でした。
危機モデルのプロセスを経て前向きになり、長期にわたる闘病生活に全身全霊をかけて挑みました。
》【小児がん】肝芽腫って何?症状や診断、治療法などをわかりやすく解説【体験談】
発達障害と診断された時は、子どもの起こす行動の理由を知るために、自閉スペクトラムや発達障害についての勉強を始めました。
勉強し始めて、本に書かれていることを実践していきますが、ことごとく失敗に終わります。子どもに合わせた対応でないと意味がないということがわかり、かっくんに合わせた対応策を試行錯誤していきました。
以下に、発達障害の問題行動の対処するポイントなどを紹介しています。
》【発達障害】子どもの問題行動の原因や対処するポイントなどを解説【体験談】
まとめ
「発達障害を受けいれるまでの親の気持ち」には、個人差はあるもののプロセスがあるということです。
このプロセスは発達障害に限らず、さまざまな病気や障害、災害などの衝撃的で危機的な出来事が起こったときなど自分の心の中で起きるものです。そしてその受け入れる過程の進み方にも、さまざまな個人差があります。
ずっと認められずに受け入れられないこともあるでしょうし、プロセスを進んでいても何かのきっかけで戻ってしまうこともあるでしょう。ゆっくりと自分のペースで現実を理解し、心の葛藤を乗り越えて、前を向いて次に進むことは、並大抵のことではありません。
それには、温かく見守ってくれる医師や専門家からの、わかりやすい説明や疑問への助言などのサポートも必要になります。また家族間の理解も大切になりますが、家族によって温度差があるのが現実です。
医師や看護師、臨床心理士など誰かひとりでも、自分の心の思いを話せる機会を作ることで、前を向いて進むことができるようになります。